スタグフレーションとは?

本記事では、景気に関わるスタグフレーションという言葉について、その意味や原因などを詳しく解説します。

スタグフレーションとは?

スタグフレーションとは

スタグフレーションとは

スタグフレーションとは、景気が停滞しているのにも拘わらず、物価が上昇し続ける現象です。最近では新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナに対しての軍事侵攻により、原油やエネルギー、小麦などの価格が上昇し、まさにスタグフレーションと言えるような状態になっています。

物価の上昇は本来「インフレーション(インフレ)」と呼ばれ、これは物価が継続的に上昇して通貨の価値が下がる状態です。インフレが起きる要因として、経済が活性化することによる需要の拡大を理由として起きるインフレ(ディマンド・プル型のインフレ)のほか、円安や輸入品の価格の上昇に起因して起きるインフレ(コスト・プッシュ型のインフレ)もあります。

このインフレに対し、物価が継続的に下落して通貨の価値が上がる状態がデフレーション(デフレ)です。1998年以降から現在に至るまで、日本はこのデフレの状態に置かれてきました。

スタグフレーションは、そんな不景気で賃金が上がらない状況にも拘わらず、生活必需品の価格が上昇している状態です。景気の低迷を意味する「スタグネーション」と「インフレーション」を組み合わせた言葉となっています。スタグフレーションによって企業の業績が悪化、社員の賃金アップがなくなるなどの可能性も考えられるでしょう。一方、物価が上がり生活コストは上昇するので、デフレとコストプッシュ型のインフレを組み合わせたような状態と言えるため、特に注意が必要です。

スタグフレーションの原因

スタグフレーションが起きる要因としては、石油や食料などの生活必需品の供給不足が挙げられます。その背景にあるのが、政治混乱や戦争・紛争などです。

日本では、私たちが使う電気も90%以上を火力発電に頼り、石油資源に依存しています。自動車を動かすガソリンや軽油も石油から精製されているため、エネルギーを輸入に依存している日本にとっては特に大きなリスクと言えるでしょう。

過去のスタグフレーションの事例

過去のスタグフレーションの事例

オイルショック

1973年に勃発した第4次中東戦争の影響で、第一次オイルショックが発生しました。中東の国々が輸出価格の引き上げと原油の供給制限したことで世界的に原油の供給不足が発生し、世界的な不景気を巻き起こしたのです。

日本でも原油価格の高騰からガソリン価格が上昇し、1982年の第二次オイルショックの際にはガソリン価格(東京都)が180円近くにまで上昇しました。当時の物価、賃金の水準でこの価格ですので、私たちの生活や国内経済に、現在よりもずっと大きな影響を与えていたと言えるでしょう。

イギリスのEU離脱

2016年のEU離脱選択から約3年半後、2020年1月にイギリスは正式にEUから離脱しました。同年、イギリスではポンド安に伴って輸入品を含む物価が上昇する中、イギリス国民の所得が減少したのです。スタグフレーションは、このような通貨価値の大幅な下落によっても発生します。

スタグフレーションが投資に与える影響

スタグフレーションが投資に与える影響

通常は景気が後退すると金利が下落し、景気が拡大し物価が上昇すると金利も上昇します。これは、景気が停滞している際には民間企業の設備投資などが低迷し、住宅購入も消極的になるためです。資金需要が低下することなどのマーケットの要因と、借り入れの金利を引き下げることで民間の投資などを促すために日銀が政策金利を引き下げるためという要因があります。

反対に、景気が拡大すると民間の投資や消費が積極的になり、資金需要が増えるために金利が上がり、景気が過熱しそうな際には金利を上げることで民間の投資などを抑制することで景気の過熱を抑えるためという要因があります。

しかし、スタグフレーション下では景気の後退と物価の上昇が同時に起きるため、金利がどうなるかはわかりません。ただし、昨今起きているスタグフレーションの状況は、現在のような景気が停滞している状況で景気抑制のために行う政策金利の引き上げを行えば、さらに景気を冷え込ませるマイナスな影響を与えてしまいます。

また、そもそも物価上昇の原因がエネルギー資源などの値上がりであり、需要が供給を上回ったことによることが理由ではありませんので、政策金利の引き上げで対処できることではありません。

スタグフレーションと言っても、その状況と要因によって適した対策が異なります。なぜそのような状況になっているかを明確に読み解き、その上でどのような政策が行われるのかを判断する必要があるでしょう。

一般的に、景気が拡大して過熱を抑制するために金利が上がると株価が下がり、不景気で景気を拡大させるために金利が下がると株価が上がります。しかし、スタグフレーションが起きると不況リスクが高まることで、投資家心理は冷え込む傾向があります。また、国内企業の業績は不景気とコストアップで、株価にはマイナスに影響する要因が大きくなるのです。

スタグフレーション対策の投資方法

スタグフレーション対策の投資方法

スタグフレーションが発生した際の対策として、どのような手段があるかを見ていきましょう。

不動産投資

不動産投資などの現物投資は、一般的にデフレ・インフレの両面に強いと言われています。ただし、投資金額に比例してリスクが大きる点に注意しましょう。また、人口減少にある日本においては不動産価格がどのようになるかをよく考え、立地条件などを考慮した上で行うことが必要です。

人口減少に伴い、昨今は空き家も増えています。安く建物と土地を購入した上でリノベーションをして、事業用や住居用に賃貸投資を行う不動産投資は、この空き家対策にもなるでしょう。初期投資を少なく抑えて不動産投資を行うこともできます。

ただし、不動産の現物への投資は賃料の収入のみでなく、維持管理のコストも必要です。それらを計算した上で利益を狙う、賃貸事業を行う感覚で行うようにしましょう。

また、大災害が発生した際に建物が大幅に損傷してしまったり、場合によっては価値がなくなってしまったりする場合もあります。損害保険を用いても、これらのリスクにすべて対策することは難しいでしょう。そのため、そうした事態が起き得ることを理解しておくことが大切です。

REIT

不動産へ投資が可能で、かつ少額から始められるREITも手段の1つです。1つではなく複数物件への分散投資が可能なので、災害によって資産価値が大きく失われたり、なくなったりしてしまうこともありません。不動産の現物と違って、いつでも現金化できる流動性の高さも魅力です。

また、100円から購入することもできます。当然、維持管理のコストを計算する必要がないので、現物を購入するより手軽にその利益を受けることが可能です。また、ショッピングモールの物件やリゾート地など、さまざまな投資先を選べる点も魅力でしょう。

株式投資

すでにスタグフレーションが発生し、不景気になって株価の低迷している際には、優良企業の株式を割安で購入できる可能性があります。不景気の際には、企業の本来のポテンシャルよりも株価が下がっている場合が少なくありません。そのような際に割安で購入することで、今後景気が回復した場合に大きく値上がりすることが期待できます。

また、個別株では倒産した場合、その価値がなくなってしまう可能性があります。また、業績が悪化して、株価が大幅に値下がりしてしまうかもしれません。その場合は投資信託を活用し、複数の企業に分散投資することで、大きな損失を回避しながら利益を狙うことができます。

ただし、短期保有では購入してからさらに株価が下落してしまい、損失になりこともあるでしょう。そのため、長い目で相場の回復を待ち、長期保有を前提に株価が上がったときの値上がりを目指して購入することが大切です。

コモディティ

原油などのエネルギー資源、食肉や小麦などの食品、金やプラチナなどの貴金属などにも投資することができ、これらを「コモディティ」と呼びます。金やプラチナなどの貴金属は不況の際にも価格が上りやすく、物価が上昇した際にもその価値を保つため有効です。

また、物価高により、原油や食品などはいずれも物価が上がればダイレクトに価格へ反映されます。そのため、スタグフレーションの際には物価上昇に価格が連動しやすいでしょう。これらに投資することで、物価が上がった際には資産の価格も上がるため、スタグフレーションの対策に適しています。

通常のインフレ時には株式投資などが有効ですが、スタグフレーションは景気が低迷している最中での物価上昇です。そのため、株価が下がっている場合も多くあり、株式でのスタグフレーション対策は難しいと言えるでしょう。

コモディティにはCFD取引を利用し、原油や肉牛、小麦、トウモロコシなどに投資することができます。また、金や複数の商品に対して分散投資できる投資信託もありますので、目的に応じて活用してください。特に将来のために資産形成を行う場合、物価上昇への対策を意識することはとても重要です。

また、株式と債券といった基本的な資産のみでは、スタグフレーションに対策することが難しい場合もあるでしょう。コモディティも一部取り入れておくことで、スタグフレーションに対応しやすくなります。

まとめ

まとめ

スタグフレーションとは何か、私たちの生活にどのように影響し、どのように対策していけば良いかを解説しました。

スタグフレーションは物価が上がりながらも景気が低迷しているため、収入は減っているのに支出が増えるということが起きる状態です。特に年金で生活する高齢の方にとっては、物価が上がることで支出に対して公的年金の不足分が増加してしまうことになり、老後の資金を取り崩すペースが早くなってしまいます。そのため、将来の資産形成、そして老後に資産を取り崩す際には物価上昇を意識した資産配分が重要です。

物価が上昇する要因は、主に経済成長に伴い上昇することにあります。株式投資信託で概ね対策できるものですが、時にスタグフレーションのように景気低迷と物価上昇が同時に起きることがあるのです。その際、どのように資産の取り崩しのペースを抑えるか、戦略を立てて運用資産の配分を検討しましょう。

最近では米国株式への投資が人気ですが、将来の資産は単に増やすということだけでなく、このように物価上昇に対策しながら考えることも重要です。どのような要因で物価上昇が起き、どのような資産でそれに対応できるのか戦略を立てる際、本記事を参考にして活用してください。

監修者プロフィール

小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)
日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表

<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。