クロス取引とは?

クロス取引は、リスクを抑えて株主優待を獲得するために主に使われる取引手法です。今回はクロス取引について詳しく説明します。

クロス取引とは?

クロス取引とは

株主優待を取得する手法として利用されることが多い

クロス取引とは、ある銘柄の注文において同一銘柄・同数量の買い注文と売り注文を同時に発注し、約定させる取引を言います。また、株価が変動した場合でも損益が相殺することを狙った取引であるという特徴があります。そのため、リスクを抑えて株主優待を取得する手法として利用されることが多いでしょう。

ただ、クロス取引はコストがかかるケースが多いので、ノーリスクで株主優待をもらえるわけではありません。しかし、リスクを抑えて株主優待がもらえるのはクロス取引の大きなメリットになります。なお、ザラ場中は「仮装売買」を疑われる可能性があるので注意が必要です。ザラ場とは寄り付きと引けの間の時間、およびその間の売買方法を総称して指しており、「ザラにある普通の場」という意味の言葉になります。

クロス取引の活用方法

クロス取引の活用方法

クロス取引の別の活用方法として、信用取引を活用した「つなぎ売り」と呼ばれるものがあります。つなぎ売りとは保有している銘柄の株価の下落が予想される場合、保有している現物を売らず信用取引で空売りをすることによって、値下がりのリスクを回避しようとする手法のことです。

一般信用取引と制度信用取引

まず、信用取引には制度信用取引と一般信用取引の2種類があります。
制度信用取引とは、証券取引所の規則によって弁済期限や品貸料など取引条件が決められている信用取引のことを言います。弁済の期間は最長6ヵ月間で、期日までに決済をしなくてはいけません。制度信用取引では証券取引所などが一定の基準で選定した制度信用銘柄、および貸借銘柄の取引が可能です。

また、一般信用取引に比べてコストが割安になります。しかし、対象銘柄は限られており、2021年9月6日現在で対象は118銘柄となっています。東京証券取引所に上場されている銘柄は3,784社ありますので、制度信用取引が利用できる銘柄はかなり限られていると言えます。

一般信用取引は、1998年12月に導入された信用取引の一種で、投資家と証券会社との間で取引が完結します。弁済期限や逆日歩(ぎゃくひふ)などの取引条件について、投資家と証券会社との間で自由に決定できるという特徴を有しています。逆日歩とは信用取引において信用売り(空売り)が信用買い(空買い)を上回り、株券が足りなくなった場合に株を貸してくれる人に支払う貸株料のことです。
通常の信用取引では投資家が信用買い(空買い)をした際に徴収される金利を日歩といい、買い方が日歩を支払って売り方が受け取ります。これとは逆に、売り方が買い方に日歩を支払うことを逆日歩と言います。

一般信用取引は弁済期限6ヵ月で、制度信用銘柄などを対象とする制度信用取引とは異なり、弁済期限を設けていない証券会社もあって、ほぼすべての銘柄が取引対象です。このように、制度信用取引に比べて使い勝手が良い一般信用取引ですが、金利や逆日歩などのコストが制度信用取引より高めになっているのがデメリットになります。

つなぎ売りの流れ

リスクヘッジが可能な戦略

つなぎ売りの具体的な方法についてご説明しましょう。つなぎ売りは権利付最終日の取引が始まる前に、同一銘柄・同株数を現物株の買いと信用売りを成り行きで注文するのが一般的です。そうすると権利付最終日の始値で取引が成立しますので、現物株を保有したままで、翌営業日の権利落ち日以降に取得した現物株を現渡しして決算します。このようにすると、権利付最終日には現物株を保有していたので、権利確定日に株主となり株主優待がもらえるのです。

なお、つなぎ売りは前述した通り、ザラ場中に行うと仮装取引とみなされる可能性があります。この点には注意が必要ですが、とても簡単にできる取引手法と言えるでしょう。

つなぎ売りのメリット

つなぎ売りのメリット

つなぎ売りには、様々なメリット・デメリットがあります。それぞれ詳しく確認しておきましょう。まずは、メリットから紹介します。

株価変動リスクを回避できる

つなぎ売りの最大のメリットは、株価変動リスクを回避できることです。もちろん貸株料や逆日歩などのコストがかかる可能性はありますが、株価変動リスクを回避し、株主優待をリスクは抑えつつ取得できるのは大きなメリットになります。

しかし、逆日歩などのコストがかかる可能性があるので、利回りの高い株主優待を選ぶのが重要です。利回りの高い株主優待について、参考まで以下にまとめました。

株価変動リスクを回避できる

下落局面でも利益を出せる

つなぎ売りは、下落局面でも利益を出せる可能性があります。現物株の場合、株価が上昇しなければ利益は取れません。しかし、つなぎ売りは「現物買い」と「空売り」を併用する方法なので、株価が下落しても空売りで利益が取れます。さらに、空売りを処理した後に株価が上昇すれば、現物買いの方でも利益を取れるのです。このように、下落局面でも利益を狙えるのはつなぎ売りの大きなメリットでしょう。

つなぎ売りのデメリット

つなぎ売りのデメリット

つなぎ売りのデメリットについても確認しておきましょう。

制度信用取引の場合、対象銘柄でしか活用できない

つなぎ売りはとても便利な手法ですが、制度信用取引の場合、対象銘柄でしか取引ができません。前述した通り、制度信用取引の対象になっているのは100銘柄程度に限られます。ほとんどの銘柄で制度信用取引の利用ができないのは、つなぎ売りをする際のデメリットになるでしょう。

一般信用取引ではあれば、ほぼすべての銘柄が対象になります。しかし、一般信用取引は制度信用取引に比べコストがかさみます。制度信用取引が利用できないために余計なコストがかかってしまうのは、大きなデメリットかもしれません。

信用取引の種類によって賃株料、逆日歩といったコストがかかる

つなぎ売りを活用するには、現物取引と信用取引の併用をする必要があります。信用取引を行う際は、貸株料や逆日歩などのコストがかかるのが一般的です。リスクを抑えられるつなぎ売りのメリットは大きいですが、余計なコストがかかるのはデメリットの1つと言えます。

配当金はもらえない

信用取引で「売り」取引をする場合、配当金をもらえません。さらに信用取引で「売り」取引をすると、配当金を支払わなければならないのです。もちろん、現物取引では配当金をもらえます。つなぎ売りは現物取引の買いと信用取引の売りを併用させるため、結局は配当が相殺されることになります。配当金がもらえないのは、つなぎ売りのデメリットでしょう。

まとめ

まとめ

クロス取引について詳しくご説明しました。クロス取引の活用方法には信用取引を活用した「つなぎ売り」と呼ばれるものがあり、つなぎ売りは主にリスクを抑えて株主優待をもらうために利用される取引手法になります。もちろん、コストがかかるケースがあり、思い通りに取引できるかは分かりません。
しかし、リスクを抑えられることに違いはなく、覚えておきたい手法の1つです。利回りの高い株主優待を利用すれば、多少コストがかかっても大きなメリットになるでしょう。ここで解説した内容を参考にクロス取引に関する理解を深め、ご自身の投資に活かしてください。

監修者プロフィール

渡辺 智(ワタナベ サトシ)

FP1級、証券アナリスト。
<プロフィール>
大学商学部卒業後は某メガバンクに11年勤務し、リテール営業やプライベートバンカー業務、資産運用コンサルティング(投資信託、保険、債券、外貨預金など)、融資関係業務(アパートローン、中小企業融資)などを経験。銀行在籍中、2度の最優秀営業賞を受賞。銀行在籍時の金融商品販売額は500億円を超え、3000人を超える顧客に金融商品営業を行う。その後、外資系保険会社でコンサルティング営業として従事し、現在は業務経験・知識を活かして金融ライターとして独立。難しい金融をわかりやすく伝えることをモットーに活動中。